第二章 魔物 ページ11
『見ツケタ』
『ミツケタ』
『犬ノ飼イ主見ツケタ』
蝉の鳴き声は嫌いだが、ひぐらしの鳴き声だけは嫌いじゃない。
都会というほど栄えてはいないが、ど田舎というほど何もない訳じゃない。
そんな場所でも田畑のある方へ足を進めればひぐらしの鳴く声ぐらいはする。
そんな夕暮れを伝える音が、眠るAの耳に届いた。
「目ぇ覚めた？」
自分の顔を覗き込むように見つめる大先生と目が合った。
普段片方だけ隠れた瞳も見えると、出会った時の印象より少しだけ幼い顔に見える。
「ここは…？」
「お社の本殿やで。普段俺らはこっちにいるんや」
賽銭箱のある拝殿(はいでん)のすぐ後ろには木々に隠れて見えなかったが立派な本殿があった。
その本殿の広い一部屋の真ん中に敷かれた布団の上で眠っていたらしい。
夢を見ていたはずなのにまた、何も覚えていなかった。
「契約は無事終了。晴れてAちゃんと俺らは主従関係となったわけや」
「主従…？神様に私がお仕えしてる感じですか？」
「いんや？俺らが、Aちゃんに仕えてるんや」
違和感を覚えるセリフに布団から起き上がり思考を巡らせる。
「神様なのに私の方が主人っておかしくないですか？」
鋭いねぇと大先生は顎に手を添える。
「俺らはね、確かに今神様って存在やけど、危ういんや」
大先生の話はこうだった。
神様には種類がある。
絶対に名の変わらない神様、例えば大国主様や、天照大御神様はその名が日本中を知らしめている。
名前は変わらないし、多くの人が信仰しているため消えてしまうなんてことは絶対にあり得ない。
しかし、その土地に根付いている神様はまた別だ。
人々の願いから生まれた神様というのは時代が変われば変化したり名すら無くなってしまう事もある。
我々神社にいる神々たちは後者の方であり、人の信仰心が無くなってしまえば、消えて無くなるかバケモノとなってしまうかのどちらかだという。
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作者名：味鈴
| 作成日時：2023年5月24日 16時
