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「A」
襖の向こうからの声に応える。
ゆっくりと空いた襖の向こうには正座をしたトントンがいた。
「もう着替えとったんか。なら話が早いわ。着いてきてくれるか？」
トントンは立ち上がると部屋の前にある縁側を先に歩き出す。
後を追うようにパタパタと駆け出した。
「もうすぐ逢魔の時間や。まずは現状把握。ここがどんな場所か理解してもらうで」
本殿を出、鳥居のある参道まで向かう。
茜色の空の下には既に皆が集まっておりチーノはこちらに気付いてヒラヒラと手を振る。
「Aさんこっちこっち！」
駆け寄ってきたチーノは俺の隣にとAの手を引く。
戸惑いながらもその輪の中に入ると、全員がじっとこちらを見つめている事に気付いた。
「なにか…？」
「ほんまにすんごいなこの子」
「逆にこんな逸材を今の今まで見つけられんかったのエグない？神様とかあんま信じてへんタイプやった？他の神社でも行きゃ多少は感知できたはずやけどなぁ」
顔を傾けながらじっと視線を合わせるように見つめるシャオロン。
そのすぐ右隣にも『天』という布で顔を覆ったロボロがこちらを観察するように顔を近づけていた。
「あの…何がすごいんですか私…」
「普通こんだけの人数と一斉に契約したらのたうち回るぐらい苦しいはずや。自分の力を与えてるんやからな。でもお前はピンピンしとる。恐ろしいやっちゃな」
説明をしながらトンっと人差し指でAの胸を押すコネシマ。
コネシマと目があった瞬間、気絶する前のことを思い出しカッと顔が赤くなる。
察した大先生は「あらー♡」とわざとらしく口元を手で覆いニヤニヤするが、それに気付いたコネシマが拳骨を食らわせた。
「悪かったな。覚えとるやろ？キスしたの。契約すんのにどうしても誰かがやらんといかんかったんや。一番近かった俺がした。そんだけやで」
「あ…いえ……大丈夫…デス」
必要な工程だったとはいえ、キスして何の反応も無いとこちらもこちらで気まずい。
初めましての人に何の躊躇いもなくキスできるあたり、手慣れてるのかなとか、魅力何も無いかなとか余計なことまで考えてしまう。
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作者名：味鈴
| 作成日時：2023年5月24日 16時
