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まだまだ寝苦しい夏の夜。
残暑の残る夜。
外からは虫の音が聞こえる。
本殿の部屋にいるAは目の前の縁側で月を眺めていた。
いろんなことがありすぎて疲れたな…
視線を落とし、ブレスレットを見つめる。
ブレスレットについたガラス玉は今もキラキラと美しいが、先程の時のように発光している感じはない。
「これからどうなるんだか…」
ゴロンと倒れ込むように寝転ぶ。
手を大の字に広げ、目を閉じると思ったより疲れていたのか睡魔が襲ってきた。
布団の中で眠らなきゃ…
そう思いながらも落ちていく意識に逆らえず、そのまま眠ってしまった。
「………」
眠ってから数分後、トントンに言われ気分転換にと様子を見に来たゾムは縁側で眠りこけているAを見つけ側に寄る。
これだけ近付いても気が付かないあたり、特殊な体質の人間とはいえ疲れ切っているのだろう。
Aの身体を持ち上げると襖を開けて部屋へ運ぶ。
敷かれた布団に身体を乗せ、その顔をじっと見つめた。
Aの手を見ると、儀式の為に噛みついたところに絆創膏が貼られている。
血を出す為かなり深く噛みついたせいで絆創膏には血が滲んでいた。
「……っふー」
手首を握り、絆創膏を剥がす。
指をギュッと押すと再び血がジワッと溢れ出す。
眠るAは眉をひそめたが、起きる気配は無い。
瞳が宝石が屈折するかのように爛々と光る。
何かと戦っているような葛藤の見える瞳。
指を唇近くまで持っていくところで怒気の含んだ声に呼び止められる。
ゾムが振り向くと、そこにはコネシマが立っていた。
指の血に気が付くとコネシマは目を尖らせる。
「ゾム」
再びコネシマが名前を呼ぶ。
ゾムは自分の唇をギッと噛むと、新しい絆創膏をAの指に丁寧に貼り直した。
「悪い」
「……トントンに問題ないって報告してこい」
ゾムはゆっくりAの手を置き優しく布団を掛ける。
コネシマとすれ違うように部屋を出、トントンの部屋へと向かって行った。
「可哀想に。どちら側に行ったってもう普通とは無縁になるのになぁ」
コネシマが手を叩くと部屋の中に家具が現れていく。
箪笥(タンス)や姿見、服などが約束通り揃えられた。
「おやすみ。今だけはいい夢、見られるとええなぁ」
ふわりと微笑んだコネシマは襖を閉める。
月明かりが届かなくなった部屋はよく眠るAをひとり残して暗闇に包まれた。
第二章 魔物
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作者名:味鈴 | 作成日時:2023年5月24日 16時