第三章 覚醒 ページ20
襖がパァン！と音を立てて開かれる。
大きな音にAはびっくりして布団から転げ落ちた。
慌てて音のした方を見ると、仁王立ちしているシャオロンがいる。
「仕事やでA！」
「し、しごと…？」
眠気まなこで繰り返すと、シャオロンはニッと歯を見せて笑った。
・・・
「何事かと思いました本当に」
「いやーすまんなぁ、シャオロンはちと大袈裟なところがあって」
朝っぱらから叩き起こされ何事かと思い急いで後をついていくと、黒焦げになった何かがフライパンの上に乗っている勝手場だった。
説明を求めるとシャオロンは「人間やから飯がいると思って作ったけど無理やった」とへへっと舌を出して笑った。
「シャオロンが自分で飯作ろうなんて一応Aのことを思ってのことやったと思うんや…怒らんといたってや」
腰紐でたすき掛けをしたトントンは料理の手伝いと味噌汁を作っていた。
隣で魚を焼くAは鯖を裏返す。
「怒ってないですけど…あの勢いは心臓に悪いのでやめてもらいたいです」
「そらそうやな。気をつけるよう言っておくわ」
味噌汁を火からおろし用意してあった汁椀に入れる。
炊いてた米もよそうとトントンは勝手場にある椅子に腰を下ろした。
「便利なことできるのに、食事は手作業なんですか？」
朝起きて部屋を見渡し、箪笥や服等が揃っていることに気付いた。
きっとコネシマさんが用意してくれたのだと、あの手を叩く動作を思い出す。
食事だってそうやって出せばいいのにと何となくの気持ちで聞いてみた。
「あれはそんな便利なもんちゃうんよ。存在してるものの場所を移すだけ。ゼロからを生み出せるわけちゃうねん」
例えばと、トントンが右手をかざすと短刀がその手に握られる。
「これは蔵に置いてある短刀をここに『持ってきた』だけ。当然戻すのも…」
再び短刀が手の中から消え、Aは「おお」と感嘆の声を漏らす。
「便利だけど、万能では無いんですね」
「そうゆうこと。君ほんま賢いな」
焼き終わった魚をお皿に乗せ、話をしながら作ったほうれん草の胡麻和えを菜箸で摘む。
「一口食べます？」とほうれん草を掴んだ箸をトントンの方へ向けた。
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作者名：味鈴
| 作成日時：2023年5月24日 16時
