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「…俺ら、ほんまは飯なん食わなくてもええんやけど…まぁ…」
ほうれん草をトントンの口の中に入れる。
もぐもぐと咀嚼し、ごくんと飲み込んだ後に「どうですか？」と感想を待った。
「…うまい。気持ちもうちょい醤油足すと…ええかも…」
「なるほど。よかった、味見してくれたおかげで美味しく食べれますね」
ボウルに入ったほうれん草に少しだけ醤油を足すとAは小皿にそれを盛った。
「部屋で食うか？」
なら持っていくでとトントンはお盆を持とうとする。
「……ひとりで食べてもつまらないので、よかったら一緒にどうですか？」
Aの提案に、トントンは面食らった。
出会ってまだ１日しか経ってない奴を一番無防備になる飯の時間に誘うとはと驚きが隠せない。
「あ、嫌なら別に…」
「いや、一緒に行くわ」
自分の分の食器を出すと、食事をよそいお盆に乗せる。
勝手場を出てAの部屋に行き、向かい合うように座るとふたりで手を合わせた。
「普段から皆さん何も食べないんですか？」
「酒でこと足りるからな。好んで食う時もあるけど…食わんくても死なへん」
美しい所作で食べ進めるトントンをジッと見つめながらAも少しずつ食事を口に運んでいく。
聞きたいことはたくさんあるのにイマイチ整理が出来ず押し黙っていると先に口を開いたのはトントンの方だった。
「こんなん俺が言うのも変な話やけど…嫌やないんか」
「え？」
聞きにくそうに視線を逸らしながらトントンは続ける。
「勝手に連れてこられて、勝手に契約させられて、普通やったら『ふざけんな』って出てってもおかしないなぁ思って」
Aは少し考えた後、箸を置き口を開く。
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作者名：味鈴
| 作成日時：2023年5月24日 16時
