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「……っう」
社の中は甘ったるい匂いが漂っており、思わず空いた右手で鼻元を覆う。
「あれまぁ、少し匂いがキツかった？」
眩暈がするほどの甘い匂いもそうだが、そんなことよりも気になることがあった。
賽銭箱の正面にある引き戸から小さな小部屋になっている社に入ったが、そこには数人の同じ装束のような服を着た男たちがいた。
「お、来たな！」
「え〜〜！想像の１００倍かわええ子やねぇ」
空色の瞳に透き通るような金髪の男はこちらを見つめ口角を上げる。
丸眼鏡を掛けた橙色の瞳の男は装束の袖で口元を覆いながら目を細め妖艶に微笑んだ。
「早いところやってしまおうや」
「説明してあるんか？そもそも」
表情が見えないようになのか『天』という文字の描いてある布を顔にかけている男と、浅緑色の瞳をした前髪の長い男が大先生を見ている。
いったい何が起こっているのか、何が始まるのか。
恐怖で身体が強張ってしまった。
「実はまだなぁんも説明しとらん。急にしたところで信じられへんやろ？」
「だったら説明したれ。時間もあんまりない」
爛々と輝く紅色の瞳がジッとこちらを見た。
眼鏡越しからでも分かるその力強い輝きを前に、何故かガクンと力が抜け、畳の上に座り込んでしまった。
「トントン。やめたってや」
「今のは不可抗力や」
金糸雀(きんしじゃく)色の瞳をした男がトントンと名を呼ぶ。
燃えるような紅色の瞳は落ち着きを取り戻すと目を伏せ小さな声で「すまん」と呟いた。
「あんなぁAちゃん。単刀直入に言うんやけど、契約してほしいんや、俺たちと」
「何を…言ってるの？」
訳がわからない。
ただお礼を言いに来ただけなのに何が起こってる？
小さな小部屋を見回してもただ腰を下ろし、こちらを見つめる男達がいるだけ。
香なんてどこにも焚いてないはずなのに漂うこの甘い香りは判断力を鈍らせる。
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作者名：味鈴
| 作成日時：2023年5月24日 16時
