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「突然のことでよく分かりませんが…ひとつだけ聞いても？」
なぁに？と大先生は首を傾げる。
「私に断る権利は存在しますか？」
ヒヤッと冷たくなる空気。
自分たちを神様と名乗る男達の「お願い」は人間の自分に断る権利なんて存在しないことを心のどこかで察していた。
それは案の定で、大先生は微笑みを崩さないまま答えた。
「無いよ。だって、『神様』に選ばれたんやから」
結婚を約束していた彼氏に振られ、たまたま立ち寄った神社で断る権利のない契約をさせられる。
まさに踏んだり蹴ったりだが、もう心底どうでもよかった。
自分はこういう星の元に生まれたんだと納得することができる。
自分の性格上、いい意味で、諦めが早かった。
「…分かりました。では衣食住の提供を約束する代わりに、契約すればいいんですね？皆さんが神様でいられるように」
「うん。ありがとうね、Aちゃん」
了承の返事をすると、隣にいたショッピさんが立ち上がる。
背後にやってくると両手で私の目を覆った。
酔わないようにしてくださいと一言だけ言うとグワンと頭が揺れる感覚に襲われた。
「なっ……に…！」
覆っていた手が離れると、先程の小さな小部屋から大きな部屋に移動していた。訳がわからないとあたりを見渡す。
「契約すんのにやらなあかんことがあんねん」
パッと目の前に現れたのは浅緑の瞳をした男だった。
名前をゾムと言うらしく、ゾムさんは私の左手を取るとそのギザギザと尖った歯で人差し指をガリっと噛んだ。
「いっ…！」
指からポタポタと血が流れるぐらいには深く噛まれた。
痛みに眉を寄せるとゾムさんはそれを小さなガラス製のおちょこに入れるよう指先を下に向ける。
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作者名：味鈴
| 作成日時：2023年5月24日 16時
